シナノゴールド開発ストーリー
平成11年に品種登録されたりんご「シナノゴールド」。県内の栽培面積は270haと「ふじ」「つがる」「シナノスイート」「秋映」に次いで第5位、全国では13道県、661ha栽培され、第6位となっています(平成28年当時)。また、平成25年からは、イタリアで生産販売がスタートしました。海外でも評価されたシナノゴールドはどのようにして生まれたのでしょうか?育成者の1人の小松宏光担当研究者(平成28年当時 果樹試験場場長)にお話を伺いました。
3人の担当研究者がそろって「おいしい」と評価したのがきっかけに
長野県でリンゴの品種育成が始まったのは昭和40年代ですが、当初から甘さと酸味のバランスが良くおいしい品種を作ろうという目標がありました。それともう一つ、収穫時期が9月ごろの「つがる」と11月ごろの「ふじ」という人気の2品種の間、10月ごろに収穫できる品種も、生産農家から望まれていました。
そこで、甘さと酸味のバランスが良くおいしいと言われていた「千秋」と、栽培しやすく収量が多い「ゴールデンデリシャス」の2品種を両親として誕生したのがシナノゴールドです。当時、りんごの育種は私を含めて3名の職員が担当し、食味の調査をして新品種の候補を評価していました。3人の評価が一致することは珍しいのですが、3名がそろって「これはおいしい」と評価したのが、このシナノゴールドでした。
シナノゴールドは酸味と甘味のバランスが絶妙な品種ですが、育成中、リンゴを食べた人からは「少し酸味が強すぎる」との意見もありました。ところが、平成9年に長野県で開催された「世界りんご交流大会」をきっかけに評価が高まりました。この大会では、「シナノスイート」などの10月ごろに収穫できる数品種を食べ比べたのですが、参加者から「シナノゴールド イズ ナンバーワン」と高評価の声が上がりました。この時に、イタリアの南チロルから参加していたりんご栽培技術者のカート・ベルツ氏にシナノゴールドに注目していただき、これがきっかけとなって、ヨーロッパ最大のりんご産地である南チロルにおいて試験栽培が始まりました。この「世界りんご交流大会」がなければ、今のように世界的に評価される品種にならなかったかもしれないですね。
世界に羽ばたくシナノゴールド
リンゴの品種育成には、大変時間がかかります。特に実がなり始めるまでに6~7年もかかるのですが、この間はただ見守るしかないのです。シナノゴールドは、昭和58年に交配して得た種を、翌年まきました。その後、樹を育て平成3年にようやく実がなって、そこから、おいしい果実の選抜が始まりました。交配から品種登録まで17年と新品種としては早い品種です。シナノゴールドの優れた点は、そのおいしさと併せて、貯蔵してもおいしさを長く保てることです。この特徴を活かして販売するための研究にも取り組みました。
イタリアでの大規模商業栽培に向けたライセンス契約協議の結果、平成28年3月に長野県で初めてとなる海外許諾契約をイタリア南チロルの「りんご生産者団体」と締結しました。この契約締結により、長野県で開発された品種が初めて海外に進出することとなりました。この品種の育成に携わった者として、自分の産み育てた子供たちが世界に向けて巣立っていく喜びを感じています。このシナノゴールドが大きく羽ばたいて、世界中の消費者の皆様方に愛されるとともに、栽培されるりんご農家や関係の皆様に大きな利益をもたらすことができると期待しています。
2016年3月 阿部知事とケスラー社長とのライセンス契約締結