新品種開発ストーリー

長交鶏3号(ちょうこうけいさんごう)開発ストーリー

ジューシーで弾力のある肉質、強いうま味が特徴の地鶏「長交鶏3号」は、2020年(令和2年)に畜産試験場で開発された長野県オリジナル地鶏の新品種です。この誕生までにはどのようなストーリーがあったのでしょうか。畜産試験場養豚養鶏部の水流正裕さんが当時を振り返りました。


目指したのは、旗艦ブランド「信州黄金シャモ」に続く長野県オリジナル地鶏

畜産試験場は、これまでに2種類のオリジナル地鶏を開発し、そのひなを生産して農家に供給してきました。ひとつは平成16年に開発した「信州黄金シャモ」です。「信州黄金シャモ」は、家畜改良センター産の父鶏「シャモ833系統」と母鶏「名古屋種」を交配した在来種由来血液百分率注)(以下、地鶏率)100%の品種です。肉用鶏は、平均体重が3kgに到達する時期が出荷適期とされています。ブロイラーが40~50日で出荷適期に到達するのに対し、「信州黄金シャモ」はこの体重に到達するのに、雄は112日以上、雌は120日以上の飼育期間が必要です。ゆっくりと発育することで、歯ごたえとうま味が最高級と評価され、旅館や高級ホテル、飲食店などで利用されています。

もうひとつは平成9年に開発した「しなの鶏」です。「しなの鶏」は、生産効率を重視した地鶏率50%の品種です。成長が早く、ふ化から85日程度で出荷となりますが、半分はブロイラーの血統が入っているため、地鶏としては肉質が軟らかく、うま味が弱いところがやや物足りないという欠点があります。

そこで、この第3弾として、畜産試験場では旗艦ブランドである「信州黄金シャモ」に次ぐ肉質で、「しなの鶏」の欠点を克服できる地鶏を目指して開発に着手しました。開発目標は、飼育しやすい、ふ化から100日程度で出荷できる、平飼い採卵鶏農家でも導入できる、適度な歯ごたえの肉質と良好な食味など、多岐にわたりました。また、地元のスーパーなどで気軽に購入して食べることができる、家庭的な地鶏となることも目標の一つでした。

新品種の開発は(独)家畜改良センター兵庫牧場から数種類の種鶏を導入することからスタートしました。導入した種鶏たちにはいろいろな組み合わせでパートナーになって卵を産んでもらいました。そうして、ふ化したヒナたちは長野県オリジナル地鶏の候補生としてセレクションに参加しました。この狭き門をくぐり抜けて選ばれたのが後の「長交鶏3号」です。選出の決め手は、開発目標をクリアしていることに加えて、写真映えする見た目の美しさでした。父に地鶏率50%の「シャモ834系統」、母に地鶏率100%の「名古屋種87系統」を持つ、地鶏率75%の鶏です。この鶏のモモ肉は、(一社)食肉科学技術研究所のプロの評価員による官能評価において、市販のブロイラーや「しなの鶏」と比較して肉質は多汁性や弾力性に富む、風味はうま味が強いなど、総合的にも高い評価を得ました。また開発の最終年には、県内3ヵ所の養鶏農家でも試験的に飼育していただきました。その結果、成長が適度で落ち着きがあり飼育しやすい、肉質はジューシーでうま味が強いなど、高評価を得ることができました。

注)日本農林規格では在来種由来血液百分率が50%以上の鶏肉を地鶏肉と定義している。

新しい地鶏「長交鶏3号」の親系統と地鶏率

  • 「長交鶏3号」を使った焼き鳥

  • 「長交鶏3号」を使った親子丼


多くの時間を費やして決定された「長交鶏3号」の生産振興方針

「信州黄金シャモ」は、安心安全な生産物の提供と一定水準の品質保持を目的に、飼育するにあたって以下のような取り決めがあります。

  • 飼育者の認定と登録
  • 販売に際し、プライべートブランド名の表記禁止
  • 「信州黄金シャモ飼育の統一基準」「信州黄金シャモ飼育マニュアル」の順守
  • 生産状況及び出荷状況に係る記録書の整備
  • 家畜保健衛生所の指導に基づく防疫対策の実践

では、「長交鶏3号」の生産振興はどのように進めるのか、多くの関係者と何回も繰り返し協議しました。その結果、以下の生産振興方針が決定され、普及を図っていくこととなりました。

  • 「信州黄金シャモ」より成長が早く生産効率が良いため、価格帯を下げて幅広い販売先を確保できる地鶏として生産振興を図る
  • 飼育上の制限を設けない
  • 肉販売時の銘柄名は規定せず、生産者のプライベートブランドで個人や地域で自由に販売できる地鶏とする

新しい地鶏を世に送り出す期待と不安

とても飼育しやすく、肉質もジューシーで味もよい地鶏なので、多くの農家に支持されるだろうと思う反面、普及しなかったらどうしようという不安もありました。私たちの使命は農家の皆さんに使っていただける品種や技術の開発ですので、「長交鶏3号」の飼育を希望する農家がいなければこれまでの努力は報われません。しかし、世の中は新型コロナや鳥インフルエンザの感染拡大の真っただ中でした。こんな時期に新しい地鶏が受け入れてもらえるのか、自問自答の日々が続きました。ところが、いざひなの供給を始めると、令和3年は4戸の農家に合計1,313羽、令和4年は6戸の農家に合計3,941羽を出荷することができ、飼育農家数、出荷羽数とも順調に増加しています。令和5年は飼育農家数がさらに1戸増え、10月からひなの配布を開始します。
現在は、飼育農家の経営する飲食店で主に利用されていますが、地元のスーパーに「長交鶏3号」の精肉が並ぶことを目指して、平飼い採卵鶏農家や複合経営農家等での飼育拡大を図っていきたいと考えています。
プライベートブランドで自由に販売できるので、どんな名前で販売されていくのかも楽しみです。

長交鶏3号を抱く水流さん(手前左から2番目)と畜産試験場で養鶏を担当している職員

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長野県農業関係試験場は、県内6つの試験場を中心に農業・水産業の課題解決のための試験研究を行っています。

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