新品種開発ストーリー

信州サーモン開発ストーリー

サーモンを思わせる銀色の身体と紅色の身が特徴の「信州サーモン」。平成6年に開発に着手し、平成16年に水産庁の承認を得るまでの10年間、どのようなことがあったのでしょうか?水産試験場増殖部 降幡充部長(当時)にお話を伺いました。


“海なし県”長野県でも、地元の魚でもてなしたい!

長野県でニジマスの大規模生産が始まったのは昭和25年ごろです。アメリカへの輸出や、焼き魚として需要が増加しましたが、その後は海水魚や輸入魚がシェアを拡大。ライフスタイルの変化もあり、焼き魚が食卓に上ることは減りましたが、寿司や刺し身などの生食の需要は増えていました。そこで、バイオテクノロジーを用いた生食用の魚種の開発を開始したんです。昭和63年には3組の染色体を持つ「3倍体ニジマス」の開発に成功しました。普通のニジマスは、染色体を2組持つ2倍体ですが、3倍体にすることで卵を生まない体になり、卵に栄養を取られることなく、肉質が良いまま成長します。しかし、この「3倍体ニジマス」は病気に弱かったことや、既に全国各地で同様のニジマスが生産されていたこともあり、あまり需要は伸びませんでした。

一方、県内のホテルや旅館などからは、観光客に喜んでもらえるような「地域ならではの魚」を求める声がありました。マグロなどではなく、地元の魚でおもてなしをしたい、と。そこで、「病気に強く、養殖しやすい」「刺し身でおいしく食べられる」の両方を叶える魚種を目指すことになりました。


将来ものになるかわからないものを開発していく苦労

新しく3倍体の魚を開発する中でとった方法は、「4倍体ニジマスをつくり、普通(=2倍体)の魚と掛け合わせて、3倍体の魚をつくる」というものです。この「4倍体ニジマス」が難しかった。他にまねができないようなことをできるだけ簡単に、というのは言うは易くで、実際は大変です(苦笑)。毎年2~3万粒、10年間で約22万粒の受精卵に圧力処理をして、43匹をつくり出すことに成功しました。作出率にすると、相当低いです。1、2匹できても、卵がたくさんとれるような群れにするまでには時間がかかります。開発スタートから7、8年くらいで目途は立ちましたが、最終的にOKというところまでは10年かかりました。私が開発に関わり始めたころには、もう4倍体はできていたのですが、開発当初は将来どうなるかわからない、手探り状態だったと思います。ある程度、見えてくると「もう少し頑張ろう」という気持ちになれますが、見えない状態というのは大変ですよね。

もうひとつ重要なのは、ニジマスと掛け合わせる魚種選びです。ニジマスはもともと、肉質が良くて育てやすい魚ですが、他の魚種と掛け合わせることで病気に強くなります。イワナやヤマメ、サケなどさまざまな魚種の中で、一番良かったのがブラウントラウトでした。愛・地球博(平成17年)で、信州食材として提供したときに評判が良く、「良いものができた」という自信になりましたね。養殖業者数、出荷量、取り扱い店舗数も徐々に増えてきています。これからもより多くの人に食べていただければ嬉しいです。

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長野県農業関係試験場は、県内6つの試験場を中心に農業・水産業の課題解決のための試験研究を行っています。

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