「長果G11」(クイーンルージュⓇ)開発ストーリー

長果G11(クイーンルージュ(r))の果実
皮ごと食べられ大粒で赤いぶどう「クイーンルージュⓇ」。その誕生にはどのようなエピソードがあったのでしょうか。今回は当時育種を担当した果樹試験場育種部の峯村部長からのお話を元に、その誕生までとこれからの品種開発についてご紹介します。
「クイーンルージュⓇ」が作られたワケ
農産物の新品種ができるまでには、いろいろな理由がありますが、公設農業試験場において育種の最も大きい原動力となるのは「生産者」、「市場関係者」、「消費者」の皆さんの声です。近年、ぶどうに対する消費者ニーズは多様化しており、品種の育成にあたっては、食味が良いだけでなく、種無し栽培ができ、皮ごと食べやすいことが重要な特徴となります。また、鮮やかな色もその一つで、近年は「○○映え」とよく言いますが、見て楽しめる品種も求められています。
長野県ではこれまで、種がなく皮ごと食べられる品種として皮の色が黒色の「ナガノパープル」、緑色の「シャインマスカット」を主要な品種とし生産振興を図ってきました。一方で、皮の色が「赤色」の品種は、まとまって栽培される品種がない状況で、生産現場からは本県に適した赤色品種の育成が求められていたのです。こんな背景をもとに皮の色が赤い品種の開発が始まりました。
育種の道のり
「クイーンルージュⓇ」の話の前に少しだけぶどうの育種の手順をご紹介します。農産物の育種は、有望な品種の花粉を有望な品種のめしべに手作業で受粉し、次世代の種を得ることから始まります。しかし、ぶどうは自分自身の花粉で受粉してしまう(いわゆる自家受粉)ため、花粉が作られる前に雄しべを除去し、目的の花粉だけがめしべについて受粉できるようにする「除雄(じょゆう)」という作業を行います。
ぶどうのつぼみは非常に小さいため(写真参照)、葯が開いて花粉が出る前に雄しべを除くためには花を覆っている部分をピンセットでとり、めしべだけにする作業をしなければなりません。1年で10組み合わせ程度実施し、1組み合わせの交配で多い時で100個ほどの蕾を処理するので、全体ではこれを1000回くらい繰り返すこともあります。
このようにして苦労して受粉しますが、それは始まりにすぎません。受粉後に果実から種を取り出し、翌春に種をまいて果実ができるまで栽培する必要があります。交配して得た子供の品質がわかるようになるまでは早くて3年の月日がかかります。
「クイーンルージュⓇ」の開発は2008年に始まり、様々な両親による10組み合わせの交配から269個体の実生(種子から育成した原木)を養成しました。その中でも、赤紫色で細長い粒で皮ごと食べられるぶどう「ユニコーン」を母親に、マスカット香が特徴で香りがよく皮ごと食べられることで知られる「シャインマスカット」を父親として交雑した個体が有望であることがわかりました。
実はきちんとついたけれども・・・。
こうして有望な子供ができたとしても、育種はそこでは終わりません。果樹は永年性の作物であるため、長い時間をかけて安定して栽培ができるかを評価する必要があります。
栽培がしやすいかどうか、病気にかかりやすくないか、ぶどうの栽培管理上重要な開花期や収穫期はいつごろか、果実の大きさは安定しているか・・・・等。より現場の視点でチェックする必要があります。「クイーンルージュⓇ」についても詳細な特性調査を行った結果、この個体は9月下旬頃に成熟するぶどうで、果皮が濃紫赤色、皮ごと食べることができ、県内各地で高糖度の果実が安定して生産できることが確認されました。この時すでに品種開発の開始から9年が経過していました。
「長果G11」(クイーンルージュⓇ)の誕生
皆さんに知られている「クイーンルージュⓇ」ですが、実は品種名ではありません。この「クイーンルージュⓇ」は2017年11月に「長果G11」として品種登録出願し、約1年半後の2019年4月に品種登録(登録番号第27457号)されました。皆さんに知られている「クイーンルージュ」の名前は商標名になります。長野県外や海外への種苗の流出を防止するために、県内の生産者と種苗の適切な管理を定めた商標使用許諾契約を結んでいます。現在、多くの生産者の方のご理解のもと「クイーンルージュⓇ」生産が行われています。
これからの品種開発
これからの品種開発としては、引き続きさらに高品質で皮ごと食べやすい品種を求めていきます。また生産現場では、天候により無核化が不安定になっていることや、ぶどう栽培の根本的な問題として、果房管理のために短期間に集中的な作業が必要となることから、労働力不足などが課題となっています。このような現場ニーズに応えるため、特別な処理を行わなくても種が入らなくなる遺伝的無核品種の開発等、これからのぶどう栽培を革新させるような新たな品種の開発を目指して、日々精進してまいります。

ぶどうの蕾











