新品種開発ストーリー

長野S11号開発ストーリー

育成者の丸山さんと長野S11号

2014年、全国的に知られる「信州そば」に鮮やかな緑色の麺が特徴の新たなブランド「信州ひすいそばⓇ」が誕生しました。これは特徴ある「信州そば」をPRし、そば産業を発展させるため長野県が取得した登録商標で、ブランド発足当時は「長野S8号」という品種を用いていましたが、現在は「長野S11号」がこのブランドを担っています。


〇望まれるそばとは?

「長野S11号」の開発ストーリーの前に、そばの実について少し説明したいと思います。そばの原料となるそばの実は黒~褐色で、角ばった三角錐のような形をしています。実の表面はそば殻で、食用には向いていないので取り除きます。すると、淡い緑色の「丸抜き」になります。この丸抜きを石臼などで挽いてそば粉にします。

収穫してから間もない丸抜きは淡い緑色で、そうした丸抜きから作られたそば麺も緑色がかります。しかし、収穫から時間が経つと緑色はくすんでしまい、麺も緑色が抜けてコンビニやスーパーで見かける灰色っぽい麺になります。そのため、そば打ち職人や製粉業者は緑色が鮮やかな丸抜きを新鮮なものとして求めるのです。そば製粉会社の専務からも、「丸抜きが緑色のそばはどこかに無いかな」との要望があり、そば業界における鮮やかな緑色への思いの深さを感じました。それまでのそばの品種育成は、収量が多いことや倒れにくいことといった、栽培に係る形質の改良が主眼でしたが、品質の改良という新たな視点の着想を得ました。

ただ、「緑色が鮮やかな丸抜き」、こういった特性を持ったそばの育成には、そばの殻を剥き、丸抜きを作る必要があります。そのためには「そば脱皮機」と、色彩を数値に変換する「色彩色差計」という機器を用いる必要がありましたが、これらは使用法が難解で、「そば脱皮機」で殻を剥こうとして丸抜きが砕けたり、「色彩色差計」では色の校正に失敗したりしました。こうした試行錯誤を繰り返してようやく使用法をマスターし、2007年から品質改良そばの育成をスタートしたのでした。


〇丸抜きが鮮やかな品種開発と「信州ひすいそばⓇ」の誕生

2007年に、育成中の24系統のそばの殻を「そば脱皮機」で剥き、丸抜きの緑色を「色彩色差計」で測定しました。その中で最も緑色が鮮やかだったのが「長野S8号」でした。「信濃1号」を含めた日本の代表的なそば品種と比べても緑色の鮮やかさは群を抜いていました。「長野S8号」から作られた茹で麺は宝石のヒスイのように緑色がかり、この特徴あるそばをぜひ品種にしなければと考えました。しかし、試験栽培をすると、草丈が高くなるため倒伏程度は「信濃1号」と大して変わらず、丸抜きの緑色も年によって変動があることが分かり、「長野S8号」の品種化、普及と並行して、その改良が新たなテーマとなりました。そこで、2008年に草丈が伸びにくい性質を持つ「K0814」と「長野S8号」を交配し、その後2回、「長野S8号」と再度交配することにより、草丈が伸びにくい性質を「長野S8号」に導入しました。同時に、鮮やかな緑色の丸抜きを選ぶ方法で、丸抜き色の改良を図り、2014年から現地での試験栽培を開始しました。また、この年「長野S8号」が品種登録され、「信州ひすいそばⓇ」ブランドが誕生しました。


〇「長野S8号」から「長野S11号」へ

ある製粉会社の社長が、「初めて見た時、その緑色の鮮やかさに衝撃を受けた」と語るほど、期待をもって普及が始まった「長野S8号」は一時、140haほどまで栽培面積を伸ばしましたが、草丈が高く倒れやすい、丸抜きの緑色がくすむ年がある、さらに試験場内ではわからなかった「コンバイン収穫で茎が詰まりやすい」といった声が栽培現場から上がってきました。台風や天候不良でそばの作柄が芳しくない年が続いたこともあり、栽培面積は徐々に減少していきました。こうした中、かねてより試験栽培や食味試験を行っていた「長野S11号」が「信州ひすいそばⓇ」の構成品種として認められ、2020年から一般栽培を開始、2021年に「長野S8号」と全面切り替えになりました。

「長野S11号」は「長野S8号」より草丈が伸びず倒れにくく、丸抜きの緑色がより鮮やかであるなど、当初の育種目標を達成できた品種となり、2021年に品種登録されました。「長野S8号」の弱点を把握し、早期に代替品種の育成を始めたことも、現場の声に素早く対応できた要因でしょう。

現在の栽培面積はピーク時の半分、約70ha程度ですが、長野県でしか食べられない「信州ひすいそばⓇ」、多くの人に味わってもらいたいです。

左:信濃1号/中央:長野S11号/右:長野S8号

そば殻を除いた子実、丸抜き。長野S11号、長野S8号とも従来の信濃1号より緑色が鮮やか。

右:信濃1号/左:信州ひすいそば

茹で麺の色。信州ひすいそばⓇはヒスイのように緑色がかっている。

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